●1999年06月25日/金
 本日は朝から雨の金曜日、なんも普段と変わらない週末に天命のように突入す。たぶん、きっと明日も明後日もいつもと変わらない土日になりそうな予感。窓ガラスを伝う雨粒の時間だけが淡々と過ぎていく午後。だからどうしたの坊や? え、別にどうもしないけど。明後日はもしかしなくても日曜日。そこで変わらぬ休日を予測する人、私。定例の阿佐ヶ谷のサンドイッチ屋に妻子と家族愛の象徴のようなVITAで向かう状況下で。
その1 その時VITAの室内に流れそうな、別にどおって事ない音
 1〜2年前の邦画なんだけど、いしだ壱成が主演していた「アートフル・ドヂャーズ」というマンハッタン(あのわざとらしいカクテルではない)が舞台の映画が少しだけ好きで何回かレンタルしてきては静かに観た。その中に登場する準主役のサイバー・ドフトエフスキーと呼ばれる若いポルノ作家の得意のフレーズ、Kiss my axxs, Natasha said. の一文といつも彼と共にある愛用MACが異常に素敵に見えたのである。そしてこの映画で音楽しているバンドがシアターブルックっていうんですって。彼らの(RealAudio195kb)が来たる日曜日のVITAの室内に普通に流れている予感。
その2 VITAの室内で交わすであろう、別にどおって事ない会話
 数年前までは、4500円の床屋にあたりまえのように通っていて、それが2年前位に3200円の床屋に変わる。そうこうしている内にこの不況下ついに1800円の床屋が登場し大変お世話になった。そしたらこの度、世も末の世紀末、先週生まれて初めての1000円の床屋発見のニュース。この店どうもフランチャイズ化しているらしい。最近東京のあちこちに出没しているらしいから。僕はたまたま高田馬場の店に行った。洗髪なし、髭剃りなし、椅子に座るといきなりチョキチョキ。下に落ちない細かい髪の毛は天井からぶら下がる専用吸引機でみごとに吸い上げる。散髪の全所用時間はたったの10分。バブルがはじけて不景気で床屋もパソコンも食事も衣類もこんなに安くなったのに、車はどうして安くならないの? という、VITAの中でのとりとめもない夫婦の日常会話の予感。
その3 そしてその直後に撮るかもしれない、別にどおって事のない日曜日のスナップ
 広末涼子の連日の「やっぱ、ドコモでしょ」の勢いで、この後VITAを降りてから阿佐ヶ谷の商店街でiモードを衝動買いしそうな予感。でもこれじゃあまりにも次元が低すぎる日曜日かしらね。だから本日は生まれ変わりたい程の雨の金曜日、なんて呟きながらVITAを操縦している。



  

●1999年07月02日/金
 明け方に限りなく近い夜。寝室のどこからか「カリッ、コリッ」なんて妙な音が聞こえて来る。うん? ふと浅き眠りから覚めてワナワナと布団から顔を出す。メガネを外しているので明け方の寝室全体がボヤけて見える。耳をこらすとその奇妙な音は部屋の隅の方から放たれている。えー? そこには小さなスタンドの明かり。その明かりの中に、氷をかじりながら一点を見つめる不気味な女が座っていた。妻だった。午前3時か4時の話。
 そういうの、頼むからやめてくれない? 心臓に良くないし。今日の仕事にさしつかえるから…… 色々お願いするが一向にやめない。一体どうしたってのよ、と説明を求める。それは「一匹の蚊」から始まったそうだ。寝静まると、ブーンと来るらしい。何故か僕と娘の方にはやって来ない。今夜のヤツのターゲットは妻オンリーだ。初めは気にとめなかったらしい。が、あまりのしつこさについに「ブチ殺したく」なったと言う。そしてスタンドの明かりを付け、こうしてじっと待つこと数時間、その間ずっと、追いつ追われつの繰り返しだと言う。もう疲れ果てて喉が渇いたから冷蔵庫から氷を出してきて、今かじっている。との事。
 最近妻にインターネットを覚えてもらっている。だから急にCRTを凝視する生活が続き、少しばかり弱いが充分に健全だった彼女の脳が病んでしまったかとハタと思った。長く続く不景気(不景気にかこつけた僕の営業努力の怠慢か)、普段やり慣れている仕事が暇になってきて昼の時間を持て余すようになると必ず家計のために「パートに出ようか?」と言い出す妻。それはそれはとっても良いオコナイなのだが、いかんせん今の不況下、なかなか楽なパートなど探してもないだろう。
 だからいつも外注している簡単な仕事や、ちょっとしたインターネット上の情報収集を妻に頼む事にした。僕にとってみればファミレスなんぞで若い女性たちとビッチリ働くよりは、パソコンの前でカチャカチャやってる方がどんなに楽かと思う。しかしそれはかなり違うらしい。電脳生活を苦手とする彼女にとってみればパソコン三昧は言ってみれば地獄、針のむしろ、股裂きの刑。なんだそうだ。だいたい「インターネット」っつう言葉だけで未だに疑いのマナコをしているし、「何? ホームページ? VITAの生活日記?」なんて鼻っからバカにして薄ら笑みさえ浮かべている始末。
 そこで彼女なりに考えたのかどうか知らないが、駐車場に化石のように横たわる文鎮VITAをもって、何か金にする手段はないか? そうだ、あの生産性のないVITAで、車持ち込みの「お中元配達」アルバイトでもしようかしらん。ん? でも私には車の免許がない。ではどうする? このさいポジティブに、無いものは取る。よし車の免許を今から頑張ってとって、暮れのお歳暮の時期には間に合わせよう・・・ などと考えたらしい。ただでさえ娘と共謀して、僕があまり乗らないVITAをこの不景気を理由に、何とか人の手に渡そうと企んでいて、しかもその空いた駐車場の後に柴犬やコギーの立派な犬小屋を作る計画までも秘密裏に相談していようとは、オヌシふとどき千万、針千本飲ましちゃうゾ・・・・の女どもである。
 冗談じゃありません。最近ちょいとばかし心が離れているとはいえ、私めの可愛いVITA。エンジンかけては止めて、止めてはかけて、の連続のお中元・お歳暮の配達バイトなんかに出せる訳がない。しかも免許取り立ての若葉マークで配達されて、ゴメンあそこの狭い路地で後ろのバンパー擦っちゃったー、ゴメンあそこの一方通行でバックしたら左のドアはずれちゃったー、なんて事にもならない内に、何とかパソコン以外の仕事を妻のために見つけなければと心痛む心境である。だからかもしれない、そんな妻には是非、ここのツメのアカでも煎じて時間をかけて飲ませてあげたい、じゃ効き目がたぶん薄いから、煎じた液を静脈なんぞにプチッと注射してあげたいのですが。しかし夜中の氷だけはやめて欲しいです。


  

●1999年07月09日/金
親友事情 その3
 彼女のスペックを箇条書きにすると。彼女は昔から硬派だ。身も心もイメージとしては硬派。日和らない、媚びない、依存しない、フウに見える。髪型は常にショートカット。若い頃から知っているが、僕の記憶の中で彼女の大きな両耳がその髪に隠れた瞬間はない。かれこれ何十年も油やパステルと格闘して多数の作品を彼女は残している。そのほとんどが抽象画。彼女の描く犬や人間には首がなかったりする、もしくはそういった傾向の絵ばかり。過去何回かの集団個展に複数出展するが、彼女の絵に予約を入れた者は僕以外いないはずだ。
 ビル・ゲイツにはまったく愛想のない年期の入ったMAC使い。彼女が今までMACにつぎ込んだ金をまとめてヤナセに持ち込めば軽くメルセデスのSに手が届く程。MACに出会う前は車とバイクにはまり込んでいた。車の趣味はゴリゴリのラリー系、バイクはオフロード。10年か15年前だったか、彼女はその泥だらけのオフロードバイクで大きなトラックの下に突っ込んだ。一命は取りとめたが片足と肩を骨折。その長いリハビリが終わってからというもの、今までまったく運転はしていないはずだ。
 その彼女と何年ぶりかの仕事の打ち合わせ。オレンジ色にライティングされた東京タワーが気持ち悪い程に近くに見える流行の安いコーヒー屋。展望台に往復するエレベーターの動きに合わせて黄緑の小さな光が上下している。綺麗。語尾を上げて、カナリ、綺麗。でも口にするときっと似合わないから見ない振りをしている私達。
 アイスコーヒーのガムシロップをかき混ぜるスプーンを忘れてしまった。カウンターまで取りに行くのが面倒なのでPHSのアンテナを出して逆さにしてかき混ぜる。目の前に座る彼女が僕の愚行を見て笑うから、もっと笑ってもらえるかと、かき混ぜた後のアンテナの先を一舐めしてみた。案の定、大受け。彼女は笑いすぎて椅子から落ちてパンツを見せた。まったく昔と変わらないパンツ、じゃなくて彼女。
 沢山の車がコーヒー屋の前を通過している。その内の半分程が輸入車のようだ。黒っぽいベクトラが信号で止まるのが見えた。VITAの姿は一台もないみたい。彼女は何故かVITAの事を良く言わない。僕を目の前にしている為か強く否定する訳ではないけれど、正直あまり好きではないみたい。そう言えば彼女が話した言葉の中に「・・・でも最近は、単純で浅い男か、複雑で病んでいる男しか周囲にいなくなったみたい、昔のようなビッグダディーがいないかもね・・・」などいう1フレーズがあった。もしかしたらこの辺とVITAの好みが心底で関係しているのかもしれない、と思いながら東京タワーを見納めていたら、彼女の夫がいつもの自転車でやって来た。
 (しかし、どうして壊すのだろうか? 大昔、確か小学校に入るより少し前の話だけれど、杉並の自宅の縁側から時間をかけて建ち上がっていく東京タワーを遠くに見るのが大好きだった薄い記憶がある。そして10代の頃、あんなにバカにしくさった東京タワーなのに、いざ無くなると聞くと不思議と恋しい。)


  

●1999年07月16日/金
 真っ赤なVITAが黄色い電車と併走する。VITAはGLSで、電車は西武新宿線。上り西武新宿線が高田馬場に近づく手前1km弱の区間、新目白通り?と西武線は目と鼻の先を仲良く平行に走る。時間帯にもよるけど、ここは結構楽しめる場所。何かに捕獲されたような重苦しい気分の通勤電車、今朝の窓の外には真っ赤なVITAが追走して来る。駅手前でスピードを落とした僕達をVITAが60km/h程で追い越して行く。先の信号の停滞で止まる赤いVITAを今度は僕達の黄色い電車がゆっくりと追い越す。
 その赤いVITAに出会うのは今朝が初めてではない。今まで確か5・6回は目にしている。毎朝決まったように同じ時間帯の各駅停車に乗る僕に数回目撃される彼女の赤いGLS。だから彼女の朝のドライブもすでに充分と日常化されているのだと思う。彼女はいつも右ハンドルを左手に持ち替えて、窓ガラスに右肘で朝の重い頭(勝手な想像ですが)を支えるようにブレーキをかける。電車のスピードしだいで、運が良ければその2回点灯するブレーキングランプを確認する事ができる。(彼女はちゃんと2回ブレーキを踏むのだ。しかも一度目は軽く短く定石にビカッと)
 実は(と言う程の事もないけど)、秘め事のような通勤の小さな楽しみが僕にはもう一つある。同じく新目白通りと西武線が平行に走る区間に突入する寸前の建造物群の中に、小さなスナックが看板を出している。こんな繁華街からほど遠い人っけのない所で誰を相手に商売するんだ? いったいどんな客(もしいたとしたら)が飲みに来るんだ? それよりいったいどんな化粧をしたママがいるんでしょうか? のちょいダサーイ風な(申し訳ないですが)スナック。でもね、その屋号というか、そのスナックの看板に書かれている縦書き日本語を読むと・・・。「ママは恋人」っつうんですよね、そのスナックの名称。初めて発見した時は、何と言うか、思わず下を向いて苦笑に近い音が出たほど。
 「ママは恋人」の「ママ」とは、「スナックのママ」というマンマの意味なのか、またはもっと広ーい意味で「母性」というイメージが含まれているの? 「ママは恋人」の店内ではどんな会話が夜ごと飛び交うの? 俺さー今、「ママは恋人」で飲んでいるから来ない? なんて言えるか俺?・・・ なんてバカな事を考えているとその先の新目白通りから彼女の赤いVITAが姿を現わしたのである。毎朝の通勤時間は憂鬱な時間。特に月曜日の朝の通勤電車の中なんて、前線に向かう輸送機の中でパラシュート降下をひたすら待つ二等兵のような心境でいる。そんな時間に目撃する「ママは恋人」と「赤いVITA」のセットは僕にとって非常に貴重なヒーリングかもしれない、と今朝、ふと気が付いた。
 サングラスを掛けている朝、煙草を吹かしている朝、携帯をかけている朝、信号で雑誌に見入る朝。そんなVITAの中の無意識の彼女を不特定多数の人間が低速の電車の中から無言で目撃している。それもかなりの想像力と共にかもしれない。(それとも危ない僕だけかもしれないですが)
 ちなみに今朝の赤いVITAの助手席には男性が座っていた。シートベルトをしない男性は彼女のハンドバックから勝手に(これも想像)煙草を出した。今朝のVITAの中の彼女は助手席の男性にすべての権利を剥奪されているがごとく従順に見えた。それに貯金通帳も難なく渡してしまいそうなくらい嬉しそうだった。今までとだいぶ違う朝の様子に見えた。(もちろんこれも勝手な想像ですが)信号の手前、今朝のブレーキングランプは1回しか点灯しなかったし。


  

●1999年07月23日/金
 サンローランかなんかのスリッパ履いて貼りぼてフローリングの上を床スレスレの白いバスローブまとって、ちょっと古いけどウインダム・ヒル軽く流して、忘年会のビンゴで当たった電動歯ブラシ使いながら、コロンの香りが付いたプロテイン入りバナナジュースかなんか飲んじゃったりするんじゃないの? 本当は? ガラス棚の大事なオールドマイセン見ながらウェッジウッドにダージリンなんかポットでなみなみ注いで、金曜日の帰りにちょっと遠回りした伊勢丹の地下で仕入れた自家製クロワッサンをレンジで暖めて指突っ込んで、熱チチ、なんて耳タブつかむタイプ? もしかしてあなたの朝って。こんなイメージを持ち続けて来たA氏と出くわした朝は辛いのら。
 顔も知ってて、どのへん系の人かも知っているのに何故かいつも軽い挨拶どまりで、まともに話した事のない人ってかなりいる。近所の中流の上の家庭のご主人だったり、事務所の階の違った小さな会社の女社長だったり、娘の同級生の若い親だったり色々だけど。本日の朝の通勤時のA氏は小学校からの同期生。同じ小学校、同じ中学を卒業しているのにほとんどまともな会話を交わした覚えがない。その上そいつの自宅と僕の自宅はほんの目と鼻の先っぽで、直線だと300m位だろうか。
 普段めったに会わないから有難いと神に感謝しながらずっと今まで何事もなく年数が流れて来たが、本日の朝こともあろうにバッタリ駅の近くのスーパーの角ではち会わせ。ここまでの接近遭遇だと、どうも、おはようございます、だけではやはり済まなくなってしまう。
 そいつも同じ心境の様で、何を血迷ったかいきなり、VITAはどうですか? とくるから、ははーん、こいつめ俺がVITAに乗っている事をちゃんと前からチェックいれて、知らない振りして気になってたんじゃないの? なんて当然口には出さずに、いやー、小さな車ですよ、暑くなるとクーラー効きませんし・・・ なんて事を言ってみたり。ほんとはボルボに先月買え換えた事を知っていながら、おたくは何でしたっけね、車? なんてボケのリアクションかましたりして。いやー、うちの子、いや下にまだ二人いるんですがね(知ってるよ)、その上のお兄ちゃんがスキーやりたいなんて言い出しまして、夏のキャンプもありますから、先日念願のボルボに買え換えまして、いやーローンが大変で。そうですか、でも車内広いから何よりですよねー、安全だし、うちのVITAは狭くて、って俺。(何が何よりなんだか)
 私、VITA前から注目してたんですよ、CRVからボルボにする時も、VITAが欲しいなどと妻が言い出すもんで、ボルボにするかVITAにするか迷った程で・・・、大きけりゃいいという物でもないし。(そこまで言うか? ほんとかよ、おまえ、証拠見せろ、でもこれペニスの比喩じゃないだろうな? 何で知ってんだ?)とか言い放つから、いやいやいや何をおっしゃりますか、何でしたら、ボルボとVITA、交換しますか? ハハハ・・・、なんてまたもや大ボケかましてしまった朝。でも、ボルボで負けました、とは私の美しい知性が邪魔して決して言わなかったが、もし、本気でとっ換えてくれるならVITAよりボルボの方がいいに決まっている、と後で冷静に思った。
 そいつ、上場企業でまともに働き続けている唯一の同期生である。しっかりしていて立派な男である。少なくても僕よりは絶対にそうだし、たぶんペニスも僕よりは大きいと思う。(だから?)でもどうもソリが合わないというか、お友達になる気力が湧かないで今まで来たし、今後もそうだろう。(相手も同じだと思うが)彼にはどうしてもサンローランのスリッパと白いバスローブのイメージが永遠に付きまとうのである。
 同じ各駅停車に乗り込んで仲良く座ったと同時に名刺をくれるから僕のも渡した。彼の名刺にも僕の名刺にも今や定石のメールアドレスが書いてある。僕のメールアドレスを辿ってこのチンケなVITA日記を読まれたら恥ずかしくてどうしょう、と一瞬躊躇したが、彼はきっとそれ程暇ではないはずだ。名刺をしまう時、彼の大きなバッグの中に、DOS/Vマガジン今月号とソニー・バイオの薄い青い角とCDプレイヤーと派手なCDジャケット1枚が見えた。そのハノイ・ロックス?だけが意外だったから、彼がVITAにするか迷った事、もしかしたら事実かもしれないと少しだけ思ってあげた。
  


  

●1999年07月30日/金
 近くに有名なフランス人学校があるので事務所周辺にはティピカル?にフランスしている場所が意外にあったりするのだ。「パリ3区」だの「パリ食堂」だのと訳の分からないレストランの卓上で、夏の夕暮れ、固いフランスパンなんぞ恋人相手にちぎっては投げてみたくなる気持ちも分からないでもないけれど。(しかし何で日本語でオーダー取って、フランス語で厨房に伝えるかな? どうみてもコックはアジア顔だもんなー)
 ローソンの角の坂を上がっていくとギャバンのような親爺がやっているフランス洋書専門店がひっそりとあって、狭い入り口のドアから洩れてくる音は当然のフランス語だったりするから、昼休みの散歩はアホづらこえて炎天下に放心している場合でもないのだ。(俺もあのウィーなんて語尾伸ばした会話一度でいいからしてみたい)
 洋書屋の前にはいつも緑のプントがカヌーみたいな小さなボート?をルーフに乗っけて偉そうに駐車しているから邪魔でしょうがない。先日はその前にシルバーのVITAがピタッとくっついて駐車していた。プントの前とVITAの後ろの空間はほんの10cm位。いかにも、私たちダチ公よ、と言っているような光景の駐車はまるでパリかローマの裏通りのようだなー、と目線をチト右に移すとダサイ携帯電話屋の店先の織田祐二のにやけた旗が夏風にそよいでいたりしてガックリくる昼休みなんだけど。(ちなみに広末はあれでよい)
 緑のプントとシルバーのVITAが坂を下りる僕を追い越してローソンの角の先で止まった。2台の小さなヨーロッパ車に合計8人のフランス人?が乗っている。プントから一人、続いてVITAから一人、長身の女性計二人がローソンの中に入っていった。
 プントから降りたグラサンの女性Aは料理をしないスーザン・シルヴァマンのように知的なお姿。髪をかき上げながら店奥のペットボトルの冷蔵庫を物色している。動きが適度で上品である。
 VITAから降りたTシャツ女性Bはガッチリした体つき。なんとなくキビキビしていて、白黒どっちなのさアンタ系? ヴィクトリア・ウォーショースキーのように頼れる感じだ。近寄って行って「ハロー、ヴィク」なんか言って気安く肩たたいたりしたらその場でのされそうである。店内に存在する他の人間はすべてオマケの日本人のようだし、二人とも背が高いし、カッチョよいから目立つ目立つ。外にはフランス人満載のプントとVITAが彼女達の買い物をマドリッドの石畳の絵のように待つ炎天下なのだ。
 女性Aは飲み物担当、女性Bは食い物担当の様子。二人の離れた会話は日本人の低い頭上を越えて店内に響き渡っている。大量のフランス語を背後にして僕は何故か浮き足だっている様子。何でよ? 俺のルーツはもしやフランス? なんてバカな妄想してたら女性Bのガッチリした左手が菓子パンを物色していた僕の左の棚をモソモソし始めた。彼女よっぽど好物なのか、何やら黄色い包みの同じ菓子パンを5つもカゴに入れた。
 大量のペットボトルとサンドイッチ類を袋に入れてプントとVITAに戻った彼らは堰を切ったように目白通りに走り去って行く。炎天下でしかも停滞気味の車群を手で難なく制止して、かなり強引に左折する彼らに意地悪をするドライバーは今の東京には残念ながらいなそうである。
 食べ切れない程の食料を仕入れたフランス8人組は一体この後どんな状況へと突入するのだろうか。先頭のVITAを運転していた肥った男の右上腕の毛深い皮下脂肪がVITAの窓ガラスに、寿司屋の水槽にへばりついたアワビのように押しつけられて、かなり気持ち悪い局面を毎日VITAに強いているように思えた。VITAがチト可愛そう。
 事務所に帰って僕も昼飯。あの逞しいフランス女性が5つも買って帰った黄色い包みのあの菓子パン。そんなに美味しいの? 騙されたと思って一つだけ買ってみる。なんて事ないそこらの山崎パン。「メロンケーキデニッシュ」120円。保存剤・ソルビン酸がたんまりの中にも気のせいかブローニュの香りが、する訳ないけどスペンサーがボストンの彼の事務所で楽しむダンキンドーナツのように贅沢に時間をかけて食してみる。窓の外、ビルの上は真っ青な夏空です。しかし最近のVITAのハンドルは熱すぎると思います。



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